つらつら草~平行読書中。

主に読んだ本のことについて書くと思います。

雪は頬に触れて涙の如く、己れへ還るしかない孤独に。

燭は孤独を描く……

 

埋れた街々の夜を渉る幽かな鐘の乱打が、

悶え噎び遠く吹雪の葬列に送られてゆく。

 

(中略)

 

過ぎ去る後姿(うしろすがた)に立ちて君を送り、

払へど雪は頬に触れて涙の如く流れる。

 

この夜、吾が生の簒奪者に対つて拳銃を祈る!

 

吉田一穂『死の馭者』

 

  その人によって、いつまでも心に残る詩句というのは様々だろう。私の場合、上記の詩がそれだ。特に【過ぎ去る……】の連はいままで読んできた近現代詩の中でも類をみない「うつくしさ」があると感じる。私は詩に対して必ずしも「うつくしさ」を求めない。詩は美の追求の為だけにあるものではないと考えるからだ。しかし、この作品のような詩句に出会ってしまうと、やはり詩の中には美が存在し得ると確信することができる。それは私にとって嬉しい驚きだ。

 

 詩である、とはなんだろうか。それは心に刺さった棘のようなものではないだろうか。と、「詩的」に表現しようとしても、こぼれ落ちていくなにかがそこにはある。深く考えようとすればするほど、深みにはまっていくだけであるともいえる。まとまった考えを述べるには時間を要しそうだ。

 だが詩人はときに重要なヒントをくれる。

 

燈(ラムプ)を点ける、竟には己れへ還るしかない孤独に。

 

吉田一穂『白鳥』より 

 

 そう、【己れへ還るしかない孤独】に【燈(ラムプ)】を点すことこそ、詩をつくり、感じることの意味かもしれない。

 

 

吉田一穂詩集 (岩波文庫)

吉田一穂詩集 (岩波文庫)